日本では、1981年に悪性新生物、いわゆる「がん」が死因の第一位となって以降、罹患数と死亡数は右肩上がりに増えています。現在、2人に1人が「がん」にかかり、3人に1人が「がん」で亡くなる状況にあります。がんはまず死を意識する疾患であり、健康に関する最も関心の高い事柄のひとつです。
がんは身体のすべての臓器から発生しうる疾患ですが、なかでも肝臓、胆道、膵臓から発生する肝・胆道・膵がんの5年生存割合はそれぞれ30%、25%、8%程度と極めて予後不良です。2019年がんの統計によると、年間罹患数は肝がん42,762人、膵がん40,617人、胆道がん22,828人であり、毎年10万人以上の方が肝・胆道・膵がんと診断されています。がん治療の中でも、肝・胆道・膵がんに対する有効な治療開発は重大な課題となっています。
肝・胆道・膵がんに対するより有効な治療開発や新しい標準治療の確立は、がん診療における重要な課題の一つとなっています。私たちは、日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group: JCOG)肝胆膵グループを中心に臨床研究を進めてきました。JCOG肝胆膵グループは、2008年の発足当初16の参加施設でスタートし、2020年には北海道から九州まで全国42施設に増えています。最近では企業治験による新規薬剤の承認、適応拡大も進んでおり、肝・胆道・膵がんに対する治療選択も広がっています。
最近のがん治療は、遺伝子解析によるゲノム医療の進歩など、目覚ましいものがあります。さらに、日本は高齢化が急速に進んでおり、高齢者や体力が低下した患者さんに対する治療選択などがん治療の多様化も重要な臨床課題になっています。個々の患者さんに対する最適な治療の提供や患者さん中心の医療の実現のためには、私たちが患者・市民の意向やニーズを知ることと、一般市民のみなさまへの適切な情報提供も大切です。
これらの医療や社会状況に対応しつつ、多くの臨床的な課題を解決していくには、JCOG肝胆膵グループと並行して機動的な幅広い活動ができる新しい体制の整備が必要と考えるに至りました。このような背景から、私たちはJCOG肝胆膵グループと協力して活動する一般社団法人を立ち上げることといたしました。
私たちは、主として肝・胆道・膵がんに関する臨床研究を行い、患者さんや市民の皆様に最善の治療や情報を提供することで、一般市民の健康と福祉の増進に寄与します。また、近年、がん治療の開発は国際的な協力が必須となってきています。私たちは国際ネットワーク、特にアジアでの連携を通じてがん治療の発展に貢献したいと考えています。主な活動方針は次の通りです。
- 肝・胆道・膵がんに対する臨床研究を行い、市民が安心できる医療の確立を目指します。
- がん臨床研究を行う研究者のサポートを行います。
- 一般市民に対し、肝・胆道・膵がんの診療に関する情報提供を行います。
- 肝・胆道・膵がんの治療開発について、アジアを中心とした国際的な連携を進めます。
私たちは、当団体を法人化することにより、組織を確立し発展することができ、さらに他の組織との連携によりさまざまな活動を展開できると考えます。以上から、私たちは「一般社団法人 日本肝胆膵オンコロジーネットワーク」を立ち上げることといたしました。
令和3年1月吉日
設立発起人代表者 古瀬 純司